東京地方裁判所 平成12年(ワ)489号・平11年(ワ)5033号 判決
主文
一 原告(反訴被告)の請求を棄却する。
二 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金四〇九万二〇〇〇円及び別紙附帯請求金目録記載の金員を支払え。
三 訴訟費用は、本訴、反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。
四 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴請求
原告(反訴被告。以下「原告」という。)が、被告(反訴原告。以下「被告」という。)から賃借している別紙物件目録記載の建物の賃料は、平成一〇年四月一日以降月額金三一〇万円であることを確認する。
二 反訴請求
主文第二項と同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、被告から、いわゆるサブリースによって賃借している建物の賃料についての約定を巡り、原告が、本訴により、約定の賃料改定時期の到来後も従前の賃料額に据え置かれていると主張して、その賃料額の確認を求めたのに対し、被告が、反訴により、右賃料改定時期の到来により賃料が六パーセント増額されたことを前提として、従前の賃料との差額の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、学生寮、社員寮の経営等を業とする株式会社であり、被告は建設用鉄骨の設計、製作等を業とする株式会社である(争いがない。)
2 平成五年五月頃、原告の子会社であり、原告が運営する寮等の企画、設計、管理、賃貸借契約の仲介等を行っている株式会社サン・エンタープライズ(以下「サン・エンタープライズ」という。)の担当者櫻澤祥二(以下「櫻澤」という。)が被告代表者を訪ね、被告所有地に社員寮及び学生寮を建て、それを賃貸して賃料収入を得るというサブリースの話を持ちかけた。(乙第一号証、被告代表者)
3 被告代表者は、サン・エンタープライズの話を受け入れ、平成五年六月ないし七月ころからサン・エンタープライズ及び原告との間で右事業計画を進め、平成六年九月ころから別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の建築に着工し、平成七年三月ころ、本件建物が完成した。(争いがない。)
4 原告と被告は、平成七年三月三〇日付けの賃貸借契約書によって、本件建物につき、賃貸借期間を平成七年四月一日より満一五年間、月額賃料三一〇万円、使用目的を社員寮又は学生寮とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。(争いがない。)
5 本件賃貸借契約には、その第三条(賃料及びその変更)において、次のとおり規定されている。(争いがない。以下この規定を「本件規定」という。)
(1) 賃貸借開始時の賃料は月額金三一〇万円とする。
(2) 賃料の上昇率は三年毎原則五パーセント(初回時に限り六パーセント)とし、甲(被告)・乙(原告)双方協議し改定する。
6 原告と被告との間では、第一回目の賃料改定時期が間近になった平成一〇年一月から賃料についての協議が行われ、原告は賃料を据え置くことを求めたのに対し、被告は、本件規定を根拠に当初の賃料月額三一〇万円より六パーセント増額した三二八万六〇〇〇円とすることを要求したため、協議はまとまらなかった。その後、原告は当初賃料を一パーセント増加した月額三一三万一〇〇〇円とすることを提案したが、この提案も被告は受け入れなかった。(証人阪口嵩、被告代表者)
7 原告は、平成一〇年四月一日以降も当初賃料である月額三一〇万円を被告に支払っている。(争いがない。)
二 争点
本件の争点は、本件賃貸借契約において、契約締結時から三年後の平成一〇年四月一日以降の賃料を、当初賃料から六パーセント増額する旨の合意があったかどうかである。
(原告の主張)
本件賃貸借契約において、三年後に賃料を六パーセント増額する確定的合意は存在しない。本件規定は、賃料の上昇率を三年毎に原則五パーセント、初年度に限り原則六パーセントとし、原告と被告間で協議して改定する旨合意したものであり、原告と被告との間の賃料改定に関する協議は調わなかったから、本件建物の賃料は、平成一〇年四月一日以降も従前の賃料額である月額三一〇万円に据え置かれている。
(被告の主張)
原告と被告間では、サブリースの事業計画が開始された当初、本件建物の賃料を月額三五〇万円とする予約がされていた。その後、原告から減額の申し入れがあったため、被告はやむを得ず賃料月額三三五万円での賃貸借予約契約を締結したが、建物完成間近になって、原告から賃料月額三一〇万円でなければ賃貸借契約を締結しないとの申し入れがあり、原告と被告との間で協議を重ねた結果、三年後に賃料を六パーセント増額することを被告が確約したため、賃料を月額三一〇万円とする本件賃貸借契約を締結した。本件規定は、初回の賃料改定時期に、当初賃料を確定的に六パーセント増額することを規定したものであり、「三年毎原則五パーセント」に続く「(初回時に限り六パーセント)」との文言は、右趣旨を表している。
第三争点に対する判断
一 甲第二号証、第三五号証、第三六号証、乙第一号証、証人櫻澤祥二、同阪口嵩の各証言及び被告代表者尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。
1 原告が、子会社であるサン・エンタープライズを通じて被告との間でサブリース事業の計画を開始した当初は、建築する建物の賃料を月額三五〇万円とすることが予定されており、平成五年九月ころ、原告と被告との間でその旨の賃貸借予約合意書を取り交わしていた。
2 その後、不動産賃貸市場の悪化等から、原告の申し入れにより、建築する建物の賃料を月額三三五万円に減額することになり、平成五年暮れころに、その旨の建物賃貸借予約合意書(甲第三五号証)が作成された(甲第三五号証の作成日付は、当初の予約合意書の作成日付を記載したものである。)。右予約合意書には、「賃料の増加率は初年度から一五年度迄三年毎に五パーセントとする。但し、経済変動等の事情の変動がある場合は、甲乙協議して改訂するものとする。」との約定が規定されていた。
3 しかし、その後、原告は、本件建物が完成する間際の平成七年三月ころになって、更に経済状況が悪化し不動産賃貸の相場が下落したことを理由に、サン・エンタープライズの企画開発部課長の櫻澤を通じて、本件建物の賃料を月額三一〇万円とすることを被告に申し入れた。
4 被告代表者は、再度の値下げ要求に強い難色を示し、交渉は難航したが、本件建物の入居者も決定し、平成七年四月一日から入居も開始されたことから、当初賃料は月額三一〇万円とするが、三年後には六パーセント増額して三三五万円に近い三二八万六〇〇〇円とすることを条件に右要求を受け入れる意向を示し、その旨の念書を作成することを櫻澤に要求した。
5 櫻澤は、被告代表者の右意向を原告に伝えたが、原告は三年後に確定的に六パーセントを増額する旨の念書を作成することを拒否したため、再び交渉は膠着状態になった。そして、サン・エンタープライズの代表取締役で原告の専務取締役でもある松島昭典(以下「松島専務」という。)と櫻澤が被告を数度訪問し、交渉を重ねた結果、松島専務が、被告代表者に対し、三年後の賃料改定時期には必ず賃料を六パーセント増額することを口頭で約束したことから、被告代表者は右条件での賃貸借契約締結に応じることにした。
6 原告と被告は、平成七年七月ころ、契約書上の契約締結日を同年三月三〇日に遡らせて、本件賃貸借契約を締結した。その契約締結には、松島専務が立ち会い、被告代表者に対し、三年後の賃料改定時期には賃料を六パーセント増額することを再度確認した。
7 また、本件賃貸借契約の締結に先立ち、作成日を平成五年九月九日に遡らせた建物賃貸借予約合意書(甲第三六号証)が作成されたが、右予約合意書には、「賃料の増加率は初年度から一五年度迄三年毎に五パーセントとする。但し、経済変動等の事情の変動がある場合は、甲乙協議して改訂するものとする。尚、初回時に限り増加率を六パーセントとする。」との条項が規定されていた。
二 本件賃貸借契約における本件規定は、「賃料の上昇率は三年毎原則五パーセント(初回時に限り六パーセント)とし、甲(被告)・乙(原告)双方協議して改定する。」とされており、「原則」という文言が「(初回時に限り六パーセント)」にも掛かるかどうかは一見明瞭ではないものの、その後に、「甲(被告)・乙(原告)双方協議して改定する。」という文言が置かれていることからすると、初回時の賃料の上昇率についても六パーセントを原則とする趣旨とするほうが、規定の文言には沿うものと解される。
そして、甲第三八号証(阪口嵩の陳述書)及び証人阪口嵩の証言には、本件規定は初回改定時に当初賃料を六パーセント増額することを確約したものではなく、被告代表者もそのことを了解した上で本件賃貸借契約が締結されたとする部分があり、また、そもそも当初賃料を月額三五〇万円とする予約合意がされたことはない旨を述べている。
しかし、本件サブリースの事業計画が開始された当初において、賃料を月額三五〇万円とすることが予定され、その旨の予約合意書が作成されていたこと及び原告の松島専務が、被告代表者に対し、交渉中に口頭で三年後の賃料改定時期には賃料を六パーセント増額することを確約し、本件賃貸借契約締結の際にもそのことを確認したことは、原告側で交渉に当たっていた櫻澤証人と被告代表者が一致して述べるところであり、被告代表者が二度にわたる原告からの賃料減額の要請に応じ、最終的に当初賃料を月額三一〇万円とすることを了解した経緯にも沿うものであって、これに反する右阪口の証言等は採用できない(本件賃貸借契約締結の際に同人が立ち会っていたとする点についても、同人の証言はあいまいであり、これを否定する櫻澤証人の証言に照らして採用することができない。)。
そうすると、原告と被告との間には、本件賃貸借契約の契約書における本件規定の文言にかかわらず、別途に口頭により、賃貸借開始から三年後には、賃料を六パーセント増額することが合意されていたということができるのであり、この合意により、本件建物の賃料は、賃貸借開始から三年後の平成一〇年四月一日より月額三二八万六〇〇〇円に増額されたというべきである。
なお、右のような賃料増額に関する合意があったとしても、経済事情の変動等により、合意されたとおりの賃料増額を認めることが不相当である場合も考えられないわけではないが、甲第三七号証によれば、原告の本件建物による営業利益は、平成八年三月期において売上比九・〇七パーセント、平成九年三月期において売上比四・九六パーセント、平成一〇年三月期において売上比七・九二パーセント、平成一一年三月期において売上比七・九四パーセントであり、同年度の賃料を六パーセント増額したとしても、売上比五・五一パーセントの営業利益を確保できることが認められ、右の事実からすると、右合意に基く初回改定時の増額賃料を不相当とすべき事情があるとも認めることができない。
第四結論
以上によれば、平成一〇年四月一日以降も従前の賃料額が継続されているとして、その確認を求める原告の本訴請求は理由がなく、平成一〇年四月一日から平成一一年一二月末日までの増額後の月額賃料三二八万六〇〇〇円と原告の支払った月額賃料三一〇万円との差額である月額一八万六〇〇〇円の二二か月分合計四〇九万二〇〇〇円及び各月から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める反訴請求は理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 寺尾洋)
附帯請求金目録
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年四月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年五月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年六月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年七月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年八月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年九月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年一〇月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年一一月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一〇年一二月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年一月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年二月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年三月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年四月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年五月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年六月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年七月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年八月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年九月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年一〇月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年一一月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一一年一二月一日から、
金一八万六〇〇〇円に対する平成一二年一月一日から、
それぞれ完済まで年六分の割合による金員。
物件目録
所在 東京都江戸川区平井四丁目八五六番地二、八五六番地四
家屋番号 八五六番二の二
種類 寄宿舎
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
床面積 一階 三六一・七七平方メートル
二階 三〇六・二〇平方メートル
三階 二九〇・〇三平方メートル
四階 二七三・八七平方メートル